物静かな大図書館の中――
しぐれは自分の耳を疑った。
今度聞こえてくるはあの不審な物音では――ない。
聞こえてきたのは なんと”声”だった。
高くて か細い 小さな声。
「まじかよ……」
しぐれは心底有り得ないと思っている様な表情をした。
「物音の次は声かよ……しかもこれって女の子の、声…?」
不気味と思いつつも、やっぱり気になるので耳を傾け続ける。
やはり、確かに聞こえる。微かに聞こえる幼い少女と思われるその声が――。
「じ、冗談じゃないこんなの!!!」思わず叫ぶ。
今 彼の心の中には恐怖と、好奇心と、緊張が一気に押し寄せていた。
――これ以上居たら俺はどうなっちゃうんだ?
だが、そう思うと逆にどうにでもなってしまいそうで怖い。
――だから今日はとっとと教室に戻ろう!
そう思って出口の方へ向かって歩こうとした、
が―。
―――タ、‥ケ、…
呼び止められるように、声が聞こえた。
「『たすけて』…って、なっ―――!!?」しぐれは気味悪そうな顔で振り返った。
しぐれには確かに聞こえた気がした。
少女の声で、『助けて』と。
そして彼はまた考える。
こんなの、放っておけばいい。と。
でももしここで放っておいたらどうなるんだ?
もし、ここへ来る度またこんな現象が起きたら自分はその時どうすればいいんだ
いや、考えすぎかもしれない。でもここは自分がまだ知らない土地なんだ。もしかしたらそういう怪談とかあるかもしれない。ほら、ここは普通と変わった学校だって言われてるし―…
それに、
しぐれはここまで考えてハッと思い出すように気が付いた。
自分は、いつもの平凡な毎日が退屈でしょうがなかったことに。
もしかしたら、これは何かチャンスなのかもしれない…
怖いけど、本の中の世界みたいに、何か退屈を覆すような有り得ない物が待ってるのかも知れない――!
怖がりだが、空想するのは大好きな自分はとても身の程知らずだ。
そして、彼の中で何より強いのは”好奇心”だった。
人一倍高い好奇心――自分はいつもそれだけでやってきていた。
だから、信じる。信じられる―
しぐれは汗ばんでいた拳を、ぎゅっと握り締めた。
「べ、別にそういうのを期待してるわけじゃないけど…もしここで無視して呪われる位だったら、自分で確かめる方がまだいい。それだけだっ――!」
しぐれは、覚悟を決めた様にぎゅっと目を瞑り深呼吸をして、その声が潜む漆黒の闇へと駆けて行った。
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